レポート

列車の中で

公開日 : 2008年08月04日
最終更新 :

私は、列車に乗っているとき、まず、人には、話しかけない。
合い席になった人に話しかけ、親しくなり、お菓子や茶を「さあ、どうぞ」と差し出されたら、どうするか?
列車の中で、インド人に、睡眠薬入りの食べ物や飲み物を勧められて、昏睡させられ、持ち物すべてを盗られた、という日本人は、数え切れない。
だから、私は、列車の中で、人には話しかけないし、合い席になったインド人に、お菓子を勧められても、絶対、口にしない。

その日、私は、バナラシに、4時間遅れで到着した列車に乗った。
私の行き先は、ブッダガヤー。
私の席は、いつもどおり、一番料金の高い車両だった。
”2A”とインド鉄道で分類される車両である。
エアコン付き二段寝台車。
私が、料金の高い車両に乗るのは、すいているし、客層がいいからだ。

私と合い席になったのは、若いインド人男性だった。
向かい合った二段の寝台の下の段に、半ば、横になっていた。
私が入って行くと、体を起こした。
ハンサムで、目が合ったときの笑顔がステキだった。
「もしかして、職業は、俳優?」
と思い、思わず、声をかけた。

彼は、大学を卒業して、米系企業に勤めていた。
アーキテクトの資格を持っているそうだ。
年齢は、24才。
収入を尋ねると、まず、収入を聞かれたことに驚いていたが、ケータイを電卓表示にして、教えてくれた。
年収は、日本円にして、100万円以上(税抜き)。
インドの高額所得者だ。
デリーの近くにある大学を卒業した、というので、
「その大学、入るの、難しいの?」
と聞くと、
「一浪、二浪、三浪する人もいる」
と言う。
つまり、受験勉強が必要、ということだ。
ツーリストエリアにいるインド人からは、想像もつかない世界だ。
「ゴアへ行ったことある?」
と聞くと、
「学生のとき、友達と一緒に行ったよ」
と顔をほころばせた。
「カメラを持って?」
「カメラを持って」
ゴアは、若いインド人男性に人気のある観光地だ。
欧米人女性が、ビキニやトップレスで日光浴するのを、見物に行くのだ。
「ヨーロッパ人の彼女、できた?」
と聞くと、
「欲しかったけど、できなかったよ」
と答える。
「ゴアでビール、飲んだ?」
と聞くと、彼は、まじめな顔になり、
「ビールは飲まない。ビールの代わりに、飲むものがあるんだ。それを飲むんだ」
と言う。
敬虔なヒンドゥー教徒のようだ。
ゴアでは、インド人も、ビール、飲んでるのに。
いるだろうな、と思いながら
「彼女、いる?」
と聞いた。
「いるよ」
と答える。
同じ高校に通っていた、一つ年下の女の子だそうだ。
今、彼女は、テレビ局に勤めていて、女性向け番組を作っているそうだ。
「アンカー」という職業だそうだが、「アンカー」の意味がわからず、何度も尋ねた。
なんにしても、花形職業だろう。
「写真、持ってる?」
と聞くと、紙入れのようなものから、彼女の写真を取り出して、見せてくれた。
若いインド人男性で、彼女のいる人は、みんな、彼女の写真を、肌身離さず持っている。
そして、「見せて」というと、見せてくれる。
彼の恋人は、意志の強そうな女性だった。
彼は、彼女に、毎晩、電話しているそうだ。
インド人男性は、マメである。
(つづく)




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