これといった当てもなく、一人ぶらりとロッブリー新市街バスターミナルに降り立った。
ここへ来るのは、もういったい何度目だろうか。
土曜日のせいもあるのだろう、乗ってきた2等エアコンバスから下車した乗客は普段バンコクで暮らす会社員や学生が多く、他に途中から乗車した僧侶や孫とおもわれる幼児を連れた年配女性もいたが、皆各々の希望する場所の近くを指定し途中下車していった。
結局終点まで乗っていたのは自分ともう一人のOL風の女性だけだった。
時計の針は10時を過ぎたところを指していた。
昼食にはまだ早い時間ではあったが、その日の起床が早いわりには朝食が砂糖入りのチャイロイ1杯だけだったせいもあり空腹感もそれなりにはあった。
何度か入ったことのある大衆食堂の椅子に座り込む。
客は自分以外に4人組みの中年女性達だけで全員が黄色いポロシャツを着ていた。今どきのタイの光景である。
自分は迷わずに、まだアルコール類の販売規制時間内にもかかわらずビアシンとカオマンガイを注文した。
来たビールはなぜかチャーンだったが、べつに文句は言わないし気にもしない。
ここのスープは鶏のだしが濃く、とても美味である。
じつは、お人よしの店主をおだてるともう一杯サービスしてくれるが、後で胃に利いてくるのでやめておく。なにせ油がギタギタなのだ。豚も少量入っているそうである。
乗り合いバス10Bで旧市街へ移動、適当なところで下車。これといった理由はなく、ただ前の席にいた年配男性が降りた勢いにつられただけにすぎない。
国立博物館であるプラナーラーイラーテャニウェート宮殿をぶらぶら散策。
1665年より10年以上もかけタイ、クメールそしてヨーロッパ様式で築きあげられた宮殿跡だ。
見物人は自分ひとりだけだった。しかもこんなマイナーな所でリピーター旅行者なんてそうはいないのではないだろうか。
博物館内2階の大広間。
誰もいない床に大の字になり「ぼうっ」と天井を眺めた・・・
静かで心癒される以外の理由は良く言い表せないが、自分はとにかくここが好きだった。
もし、ここが日本や欧米の博物館なら、床に人間が横たわっているわけだ、当然のごとく係員なり警備員なりが即座に駆け寄ってくるだろう。
しかし、やはりそこはタイだった・・・
清掃係の女性がモップをかけながら近寄って来て言った言葉は「ごめんなさいね、ちょっといいかしら」・・・なんら気にしていない。
こちらがまったりと笑顔で出れば向こうも微笑んでくれる・・・なんてすばらしい民なのだろう。
自分にとっては今この場所の、そしてこの贅沢な時間を満喫することにちょっとした人生の喜びのようなものを感じることが出来た。
ロッブリー駅
14時30分。
徒歩で駅へ向かう途中、果物売りの露天でバナナを一本だけ売ってもらおうと売り子の中年女性に掛けあう。そしていつもながらタダで貰う。しかしそれもなんだか少々気が引けるわけで、かわりに常備しているフリスキーの紺を2粒ほど手のひらにのせてやる。
ここでも「ペー」と言いながらの笑顔を拝む・・・
ロッブリーとは、何気ないありふれた街だ。
猿が有名でガイドブックなどにもよく紹介されている所で平凡にも思える。
しかし、自分にとっては知れば知るほど魅力が湧いてくる場所のひとつでもあった。どこかなつかしい気がして何度も足を運んでしまう・・・そんな不思議な魅力を感じる場所である。
次にこの街を訪れるのはいつになることだろうか・・・
その日もまた、より暑く快晴であることを願いたい。
上り14時48分の快速列車は、ほぼ定刻通りに警告音を響かせながらホームへゆっくりと進入してきた。
ディーゼルエンジンの息吹を堪能したいがために、敢えて先頭車両に乗り込んだ。
乗客はこの時間帯にしてはまばらだった。
ところがここへ来て寝不足が祟ったのか、急にもの凄い疲労感と眠気が襲ってきた。
ここで記憶はとんでいる。
どれくらい眠っていたのか・・・気が付くと、列車は終点ファランポーン駅の手前で入線許可待ちのため停止していた。
まもなく到着だ・・・
駅構内の鳩は、薄暗い中いつもながら活発に飛び交っていた。
魔都バンコク
今この瞬間も、高層ビル群のなかを排気音とクラクションがこだましていることだろう。
大統領