レポート

カーカルビッタで会った少年

公開日 : 2007年08月07日
最終更新 :

3月30日。
カーカルビッタは暑かった。
私は、ホテルに荷物を置くと、レストランを探しに出かけた。
タメルやレイクサイドにあるような、外国人向けのレストランはない。
とにかく、腹ごしらえをしなくては。こう暑くては、体がもたない。
バススタンドの2階に、食堂があった。
中に入って、メニューを頼むが、メニューはないと言う。
ミックストチョウミンとファンタを注文する。
ぐるりと食堂の中を見回す。
私の注文を取り次いだ少年が、近くのテーブルにいる。
隣の椅子の上には大きなリュック。
ウェイターだと思っていたが、通訳をしていただけで、客のようだ。
右腕を包帯でぐるぐる巻きにしている。
「アクシデント(事故)?」
と話しかける。
彼は
「僕は、バスケットボールの選手なんだよ」
と答える。
その身長でか、と心の中で茶々をいれる。
彼が、私のテーブルに移ってきた。
彼はカレッジスチューデントだそうだ。
専攻は、ホテルマネジメントだと言うから、カレッジとは、日本風に言えば、専門学校だろう。
私が日本人だと言うと、彼は、韓国語はできるが、日本語はだめだと言う。
はしった感じがするが、少し格好いい少年だ。
年は二十才だそうだ。
私が、チョウミンが辛いと言うと、うりを取ってきてくれた。
「夕方のバスで、カトマンズに行くんだよ」
彼は言った。
「一緒にカトマンズに行こうよ」
今朝、カトマンズから飛行機に乗り、やっとここまで来た私が、なんで夕方のバスでカトマンズに帰らなきゃならないんだ。
彼は叫んだ。
「一緒にカトマンズに行こうよ。泊まるのもタダ。食事もタダ。飲むのもタダだよ」
こいつ、詐欺師じゃん。
のこのこついて行ったら、薬を飲まされて、身ぐるみはがれるに決まっている。
あからさまに刺激するのもなんだと思ったので
「ビザが切れるから、別の国に行かなきゃならないんだ」
と答える。
彼は
「パスポートはどこ?」
と聞いてくる。
もちろん手元にあったけど
「ホテルに置いてきた」
と答える。
彼がずっと、隣の椅子の上に置いてある私のバッグに目をつけているのが気になる。
私もさりげなく、彼の動きから目を離さない。
彼は「カトマンズに一緒に行こう」と繰り返す。
そして、そう言えば私が喜ぶと思っているらしく
「泊まるのもタダ。食べるのもタダ。飲むのもタダだよ」
と叫ぶ。
私は言った。
「カトマンズに友達がいるんだよ。ネパール人の男の子」
とたんに彼の態度が変わった。
むっつりと黙り込んでしまった。
私をカトマンズに連れて行っても、カモにならないとわかったんだろう。

食べ終わって、バススタンドに降りる。
人だかりがしていて、女の人が何かわめいている。
彼が様子を見に行った。
「女の人が金を渡したのに、男が返さないんだって」
彼は、ホテルまで送る、と言ったが断った。
バススタンドで彼と別れた。

あの若さで、もう、外国人旅行者から金を巻き上げることを考えている。
あきれる。
でも、悪巧みをするときは、相手を選ばなきゃだめだよ、坊や。
だてに坊やの倍以上生きてるわけじゃないからね。

カーカルビッタには、一泊しかしなかったが、思い出深い町だった。

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