行っただけというのではわからない魅力

 近年、とにかく日本人が多いので驚く。それも、やたらせわしない。ありゃ、江ノ島に姫路城が乗っかってるみたいなもんで、2時間あれば、たしかに上まで行って来いはできる。でも、そんなこっちゃ、がらんどうの廃墟の建物としか思えまい。

 モンサンミッシェルのなにがすごいって、あの海だ。干満で、まさに海の中にそびえ立つ城に変わる。人気があるのは、春分と秋分。大潮で、波が迫り来る様子が見られる。夏至や冬至も捨てがたい。海抜100メートルの聖堂の中にまで、夏至の日の出、冬至の日没に、まっすぐ陽が差し込む。(他の聖堂とちがって、ここは東北に振っている。)

 さて、冬のモンサンミッシェルの魅力は、夜明けが遅く、日没が早いこと。このブルーアワー、マジックアワーに紫の天空、オレンジ色の地平線のなかにそびえるシルエットは、まさに絶景。感動的だ。とくに、島のライトアップは、緯度が高いので、夏は、島の中の灯りも消えた夜の十一時過ぎまで待たなければならないが、冬は、島の街の灯りとライトアップが夕方から見られる。これもすばらしい。くわえて、十二月は、ラッキー。ここはあくまでカトリックの修道院。当然、参道にはクリスマスの飾り付けが行われ、聖堂では毎週末に待降節のミサが行われる。

 というわけで、あんなとこ、昼間に日帰りで行って、1ユーロの卵を11ユーロの空気で膨らませたオムレツ食って、塩キャラメルだの塩クッキーだの買って来て、結局、なんにもわかるまい。そうではなく、夜明け前から起きて、猛烈な勢いで流れる大海の潮に大自然の驚異を感じ、青暗い天に突き立つ尖塔の上に立って朝日を浴びて金色に輝く聖ミハエル像を眺め、早朝の修道院のミサの荘厳な聖歌を漏れ聞いてこそ、この世界遺産のすごさが体験できる。これは、まさに一生に一見の価値のある体験だ。

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1件のコメント

  • なるほど!!

    江ノ島の例え、わかりやすいですね。
    東京観光のついでに江ノ島へ行って、展望台に上って、しらす丼を食べて、帰ってくるような感じですね(笑)

    やはり、モンサンミッシェルに行くのであれば、パリ観光のついでに行くのではなく、少なくとも1日以上は周辺に滞在できる旅程で行こうと思います。

    また、冬のモンサンミッシェルのメリットも教えていただけてうれしく思います。
    冬の旅は日照時間が短くして損した気分になってしまうのですが、日照時間が短いからこその魅力もあるのですね。

    大変参考になるご意見をありがとうございました。

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