レポート

遊牧民のテントで1泊

公開日 : 2015年09月01日
最終更新 :

 イランには今でも遊牧民がたくさん生活しています。
 
 春には涼しいところへ、秋には温かいところへ、何百頭もの羊や山羊を連れ、所帯荷物をロバに担がせ、1か月もかけて300キロメートル以上の行程を移動しています。ずっと昔からそれぞれの部族は移動するルートや宿営地が決まっていて、他の部族がそこを侵すことは禁忌になっています。

 夏の宿営地となっている、遊牧民のテントに泊めてもらいました。
 
 シラーズから車で1時間ほど走っていくと、幹線道路から砂利道への分かれ道に出ます。この砂利道は遊牧民専用で、秋の終わりに冬の宿営地に移動するときに入口を完全にふさいで、誰も侵入できないようにするのだそうです。
 
 20分ほど行くと、目の前には手つかずの大自然、大きな山々や谷が緑に染まっています。そこに35の家族が住んでいました。彼らは、家畜の草のテリトリーを互いに侵さないよう、それそれのテントは1キロメートル近く離れています。私たちがお世話になった家族は、泉に一番近い場所に宿営していましたが、そこまで車で上っていくことができず、リュックをしょって20分ほどのトレッキングでようやく着きました。
 
 お世話になった家庭の奥さんは、羊の乳を搾ってヨーグルト、チーズ、バターなどの乳製品の作り方を実際に見せてくれました。紙より薄いパンも焼いてくれました。とても簡単そうにぱっぱっぱっとのばし、下を粗朶を燃やして熱くする、フライパンをさかさまにしたような鉄板にさっさと載せてはくるっとひっくり返します。自分たちがすると、全くリズムに乗れず、パン生地はなんだかくまさんの顔みたいな形になってしまいます。
 
 遊牧民の子供たちは、小学校6年生までそれぞれの宿営地の学校で勉強しますが、残念なことにそれ以上は町の宿舎のある学校へ通わざるを得ません。親たちも高学歴を望んでいます。その結果、遊牧の生活に戻らず町の生活者となる若者が多いそうです。
 
 日中は30度以上気温があがったものの、日が暮れると信じられないくらい寒くなりました。寒さに震えながら見上げた空には満天の星が輝いていました。
 
 彼らの生活は簡素で、とても力強いものです。智恵と経験で困難を乗り越えています。しかし、若者が離れていく中で老齢化が始まろうとしています。私たちがお世話になった家庭は、夫婦2人暮らしで、4人の子供たちはみんな、結婚して町の生活者になったそうです。
 
 町にいる息子や娘のところで暮らすつもりはないか、と聞いたところ、
“羊や山羊の放牧で毎日30キロは歩いてるんだ。町に行ったら体はなまるし、病気になるだけだ。この美しい自然とは別れないよ”と言ったお父さんがとてもたくましく見えました。
 

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