体験記4

 もう、両替は終わったのだからこいつらには用はないと思ったのだけれど、荷物がトランクに入ったままでは逆らうわけにはいかなかった。つくづく、荷物をトランクに入れたのは失敗だったと思ったけれど、今更どうしようもない。仕方がないので渋々クルマに乗ると、とっても良いホテルを紹介するといって、両替商の集まっている商店街から反対の方向、空港の方に戻り始めた。
 私はエルミタに行くつもりできたのでエルミタに行って貰いたい。それがだめだというのなら、ここでおろしてくれと言ったが、勿論無視をされた。そしておせじにも魅力的とはいえないホテルの前に車を止めたのでした。
 クルマが走っている間は、ホテルを紹介すると言っているがほんとうにホテルに行くのかという不安があったのですが、とんでもない場所に建っているホテルだとはいえ、一応ホテルと思われるところの玄関前にクルマが止まったことから、とりあえず一安心と言ったところでした。
 ホテルは、玄関だけは綺麗だけれど、その周囲を見ると、まるでスラム街のような所で、とんでもないところにつれてこられたというのが第一印象でしたが、それでもこれで身ぐるみはがされて放り出されるという危険はなくなったわけで、安堵の胸をなで下ろしながらクルマを降りたのでした。
 クルマを降りると、日本語の達者な人相の良くない中年の男は、このクルマはタクシーだから料金を払えと言う。ええっ!親切で車を回してくれたのではないのかと思いながら、どう見ても普通の乗用車だが、これがタクシーならあきらかな白タクで、違法行為だとおもったけれど、日本だって白タクがあるのだから、フィリピンのようないいかげんな国で白タクがないはずはないと思いつつ料金を尋ねると、運転していた若い男は申し訳なさそうな顔で500ペソだという。歩いてもいけるほどの距離を、実際この後歩いてみたのですが、たいした距離ではなかった。人相の良くない男と二人で、500ペソだといかにも強圧的な態度で迫ってくるのと、このホテルもこいつらの仲間であることは疑う余地すらないわけで、クルマに乗ってきた二人だけではなく、ドアボーイのようなのや得体の知れないのまでもが周りを取り囲むように集まってき始めたことから、早く金を払ってしまった方が良いという気持ちになり、日本円で1000円程だ、どうと言うことはないと思いながら500ペソを払ってホテルに入ると、クルマを運転していた若い男はここで消えたのですが、人相の良くない日本語が達者な方はホテルにチェックインをするのを確認して、後でバックリベートを請求すると言うことがあってのことなのでしょうが一緒にホテルに入ってきた。もちろん、ホテルからこの男にリベートが払われ、それが空港の警備担当の職員にも環流するのは間違いないことでしょう。彼らは皆グルで、最初からこの方法で旅行者から金をかすめ取っているのです。とにかく、警備のやつが電話をすると、10分程で2人がクルマに乗って現れたと言うことは、いつ警備のやつから電話がかかってきても良いように、空港の近くで待機していたと言うことなのでしょう。他に、仕事などをしていたら、急に電話をしてもすぐに対応などできるはずがないわけで、こいつらは、観光客がカモにかかるのをひたすら空港の近くで待っていて、それだからこそ、電話をするとすぐに来ることができたのでしょうが、全く呆れたものだとしか言い様がない。

 私がホテルのカウンターの向こうにいる女に向かって1泊だけだというと、すぐ隣でおもいっきりしかめっ面をして「どうして一泊なんだ?明日日本へ帰るのか?」と聞いてきたので、「今日はあんたにはめられたけれど、それは今日だけで、明日は最初に泊まる予定にしていたところに行くからだ」というと、苦り切った顔で舌打ちをした。そして「エルミタに行くというのか。あんなぼろホテルに行って、」とか、「あんなひどい町のホテルはみんなオンボロホテルばかりでどうしようもないのに!」などと言って盛んに怒っている。両替屋で1万円じゃだめだと言ったのは、両替商からのリベートだけではなく、何日もこれから行くホテルに泊まってもらいたい一心だったからなのだと言うことが、彼の言動であからさまになったのです。もう、ここまでくればわたしをだまして連れてきたことは明らかなので、腹の中で思ったことをはっきりいうことにしたと言うことらしい。

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  • 体験記5

     ホテルのカウンターの中にいる女にホテルの金額を聞くと、2500ペソだという。ホテルの感じからして、1500ペソ以上だろうなとは思ってはいたけれど、2500とは予想外でした。1000ペソ前後の安ホテルに泊まるつもりにしていたのに、これでは予定が大幅に狂ってしまうことになってしまうと思い、もっと安い部屋はないのかというと、ないという。
     どこか他のホテルに移動できれば良いのだけれど、重い荷物を持ったまま逃げることなんてできるはずもないし、どうしたものかなと思っていると、こちらが予想外の料金に態度をはっきりとさせないでいることに業を煮やしたホテルの従業員と、ここに連れてきたごろつきはいらいらした様子で見ています。
     ホテル側としても、ここに私を強引に連れてきたごろつきにしても、せっかく捕まえたカモを逃がすわけにはいかないということなのでしょう。ここではらちがあかないと思ったらしく、腕をつかんで強引に脇にある小部屋に引きずるようにして連れて行き、そこに置いてあったこうした場合の備えなのでしょうが、ここよりも高いホテルのパンフレットをテーブルの上に並べて、同じようなホテルはみんなここよりも料金が高いと言うと同時に、ここの方が良いと言うことを執拗に言い、とにかく最低でも一泊させないことにはここから出さないという剣幕で、とにかく早いとこ金を払えの一点張りなのには閉口しました。
     私は、もっと安いホテルに泊まるつもりでいたのに、こいつが強引にここに連れてきたんだ、と言っても勿論聞く耳を持っていません。そんなことは言われるまでもなく知っていると言うことなのでしょう
     とにかく、ホテルの従業員とここへつれてきたごろつきが一緒になって、狭い小部屋の中でとり囲まれた状態になっているわけです。このまま拒否の態度を続けていると、危険なことになりそうな雰囲気が伝わってきたので、身ぐるみはがされたことを思えばたいしたことはないと思い、黙ってカウンターの所に戻ると、あとをホテルの従業員とごろつきが血相を変えてついてきて、どうするんだ!とわめいていたのを無視をして財布からお金を出してカウンターに2500ペソを放ると、みんなほっとしたようなうれしそうな顔になりました。もちろん、私の方はうれしくも何ともなかったけれど、カウンターの女が私を軽蔑したような顔で見ながら、紙になにやら書いている間、こんなことは普通の国ではあり得ない。白昼ホテルのロビーで恐喝を行うというのだから、まるで、カポネの時代のシカゴのようだ、と思いました。そしてカポネの時代のシカゴと同じで、このことを警察に言っても何の足しにもならないのだろう。だからこそ安心して、こんな時間に堂々と恐喝を行うのだろうが、全く、とんでもない国だ、と思いました。
     お金を払ったあと、クルマで誘拐されるように連れられてきたので、いったいここはどこかさっぱりわからない。いったいここはどのあたりなのかを地図で示してくれと言って地図を差し出したのですが、カウンターの女は地図全体を円で描くようにしてこのあたりだという。こいつは自分のいるホテルを地図で示すこともできないというのかと思ったけれど、たった一泊ばかりしか宿泊しない上に、すぐに料金を払わずにごねたやつなんかの面倒はみないと言うことらしい。このあとホテルの従業員の誰に聞いても同じような対応だったから。

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    体験記6

     部屋に案内されて室内の様子をみると、2500ペソなだけあって、そこそこ広い部屋でしたが、鍵は安ホテルでおなじみのボタンを押して扉を閉めると鍵がかかるというものでした。このタイプの鍵は、泥棒にとっては最も開けやすい鍵だと言うことは外国人の泥棒が跋扈していた頃に、テレビでさんざん紹介されていたのを思い出して、大丈夫かな、と不安になりました。
     1000ペソ以下の安ホテルならしかたがないけれど、2500もとっておいて、なんだこれはと言う感じになったものですが、全ての設備が古いのでこんなものなのでしょう。ごろつきに頼んで客を連れてくるしかないと言うことでは、設備を更新することなんてできるはずもないでしょうから。さらに、冷房は一体型のクーラーで、タイでは安ホテルでもこんなものにはお目にかからなかった。いったいなんなんだこれはと言う感じですが、こんなことだからこそ強引に客を引っ張ってくる以外に方法はないのだろう、と思ったものでした。日本でも昔はこうした一体型のクーラーがあたりまえの時代がありましたが、そのことを知っているのは40代以降の人だけでしょう。なぜ一体型が廃れたのかは、コンプレッサーという騒音源が一つの箱に入って窓に取り付けられているために、ものすごくうるさいわけです。しかも、このホテルのものは、相当古いらしく特にうるさい。起きているときにはまだしもなのですが、寝ているときにはやかましくて冷房を付けたままでは寝ていられない。それに輪をかけてひどいのが、大通りの交差点に面しているので、自動車の騒音がものすごい。途上国は、タイでもそうでしたが、エンジン音が大きい上にやたらとクラクションを鳴らす。これが24時間途絶えることがないので、とても安眠などできたものではないわけです。さらに、道路から一番奥にある部屋だというのに、騒音だけではなく、頻繁に部屋全体が大きく揺れる。ベッドに横になっていると、まるで船に乗っているかのようにゆったりとした感じで頻繁に揺れる。最初は地震かと思ったのだけれど、数分おきに揺れるので、地震ではなく道路を大きな車が通ると揺れるのだと言うことがわかったのですが、日本でも環七などの道路脇に立っている建物だと揺れることがあるけれど、あれとは比較にならない程頻繁に揺れるし、揺れ方が大きい。恐らく地盤が軟らかいのと、基礎工事がいい加減なのが一緒になって、とても揺れやすい構造になっているのでしょう。とてもゆったりとした揺れなので、歩いていたりすると気がつかないのだけれど、ベッドに座ったり横になると気持ちが悪いくらいに揺れる。全く、とんでもないホテルで、こんな所に間違ってもまた来ようなどと思うものはいないでしょう。
     荷物を置いてベッドに腰を下ろしていると、空腹感が襲ってきました。なにしろ、機内食を食べて以降飲まず食わずですから当然と言えば当然です。これまで緊張していたので空腹に気がつかなかったのだけれど、一人でベッドに腰を下ろして緊張感がゆるんだとたんに空腹感が襲ってきて、何も食べていないことを思い出しました。
     何かを食べに外に行こうと思いエレベーターの前に行き、乗ろうとするとエレベーターが15センチか20センチほど下に止まる。何だ、これは、と思い、足を載せたら、1階まで落ちて行くのではないかという不安に駆られ、そうっと足を載せてみると大丈夫そうだったのですが、こちらの不安を見透かした掃除担当の従業員がドンとばかりにエレベーターに飛び乗ってきてにやにやしている。
     エレベーターから出て、ロビーを外の方に向かったけれど誰も何も言わないし、ドアボーイが立っているところに行くと何も言わずにドアを開けてくれました。