体験記3

 どうも、警官のような服装をした空港の係官が手配してくれたのだということになると、人間というのはどうしてもその制服の持つ魔力のようなものに、無意識に信頼をしてしまうということがあるようなのです。
 フィリピンでは、警官であっても信用できないと言うことは久しい以前から言われ、わかっているつもりだったのですが、いざ、そうした場面に直面すると、ついつい制服の持つ魔力にすべての疑念が押さえこまれてしまい、言うがままになってしまう。
 日本やアメリカのような国では、制服を着た時点で、その制服の持っている影響と言ったものを無意識に感じて、制服を利用して悪事をはたらこう等と考える者はまずいないし、いたとしてもすぐに捕まってしまうので、制服を着た人を信じてもそれでひどい目に遭うなどということはまずありえないのですが、フィリピンという国では遙かな前から、こうしたことが指摘されているにもかかわらず全く変わらないと言うことは、制服を着て不正をはたらいても捕まるということがないからなのでしょう。
 しかし、警官や警備の人間が一番危ないと言うことでは、その国のイメージをとんでもなく落とすことになるに決まっているわけで、まともな国であれば絶対に避けたいと思うはずだけれど、恐らく、わかっていてもどうすることもできないのかも知れません。だいたい、何であんなに他の国の空港と比べても異常なまでにたくさんの警備の服装をした者がいるのかと思うのだけれど、恐らく、様々な理由で雇わざるを得ない状況があるからなのでしょう。雇わざるを得ないから雇っていると言うことはとても強いわけで、多少の不正くらいで辞めさせること等できない、と言うことになってしまうわけです。まさしく、とんでもない仕組みとしかいいようがないのだけれど、これはフィリピンという国にとってもそこを訪れた者にとっても不幸としか言いようがない。

 クルマに乗り込んでから、大丈夫かな、という不安に駆られ始めたのですが、少なくともとんでもないところに連れて行かれるというようなことはなく、両替の店に連れて行ってくれた。ほっとして、近くの店に入ろうとすると、ここではなくこっちだという。どこの両替の店だってかまわないはずなのに、強引に入ろうとした隣の店に引っ張っていく。この時点で、この店と何らかの契約があるのだな。恐らくレートは悪いだろう、という悪い予感は的中して、レートはお世辞にもよくなかった。こんなはずではないと両替商に言うと、4800という数字を電卓に表示して、2万円だから9600だ。これはほかのどこよりもレートが良いと言い張った。日本へ来る直前にインターネットでみたものとはずいぶん違うと思い、それじゃ、他の店にと思ったけれど、実際翌日にエルミタで1万円を両替してみたところ5160でした。だいたい、こうした両替ではどこの国でも端数が出るのが普通なのに、4800などという馬鹿にきりの良い数字が出てきた時点でおかしいに決まっているのだけれど、隣の店に行こうとして隣に立っている男の顔を見ると、先ほどまで優しそうな顔をしていたのが、これ以上ないという威嚇の形相でにらみをきかせているのを見て、はめられたことをはっきりとさとったのでした。はめられたと言うことがわかったからと言って、下手に動いてクルマごとどこかに行かれたのでは大変なことになってしまう。荷物はクルマのトランクに入ったままなので、もちろん荷物を放って逃げるわけにも行かない。警察に言ったところで、警察なんて全く信用できないといわれている国です。荷物が行方不明になるくらいなら、1万円や2万円は安いものだと腹をくくるしかありませんでした。しかたがないので、とりあえず1万円を両替しようとしたのですが、隣でにらみをきかせているやつが、1万円では両替できない。2万円にしろとドスのきいた声で言う。
 この時点では先ほどまで首からぶらさげていた空港の職員であるらしいIDカードのようなものは消えていました。ここからは証明書などより、威圧の方が効果があるということを経験からわかっているものらしい。両替が終わると、男はクルマに乗れと言う。荷物はクルマのトランクに入ったままなので、イヤとはいえない。

  • いいね! 0
  • コメント 1件

1件のコメント

  • 体験記4

     もう、両替は終わったのだからこいつらには用はないと思ったのだけれど、荷物がトランクに入ったままでは逆らうわけにはいかなかった。つくづく、荷物をトランクに入れたのは失敗だったと思ったけれど、今更どうしようもない。仕方がないので渋々クルマに乗ると、とっても良いホテルを紹介するといって、両替商の集まっている商店街から反対の方向、空港の方に戻り始めた。
     私はエルミタに行くつもりできたのでエルミタに行って貰いたい。それがだめだというのなら、ここでおろしてくれと言ったが、勿論無視をされた。そしておせじにも魅力的とはいえないホテルの前に車を止めたのでした。
     クルマが走っている間は、ホテルを紹介すると言っているがほんとうにホテルに行くのかという不安があったのですが、とんでもない場所に建っているホテルだとはいえ、一応ホテルと思われるところの玄関前にクルマが止まったことから、とりあえず一安心と言ったところでした。
     ホテルは、玄関だけは綺麗だけれど、その周囲を見ると、まるでスラム街のような所で、とんでもないところにつれてこられたというのが第一印象でしたが、それでもこれで身ぐるみはがされて放り出されるという危険はなくなったわけで、安堵の胸をなで下ろしながらクルマを降りたのでした。
     クルマを降りると、日本語の達者な人相の良くない中年の男は、このクルマはタクシーだから料金を払えと言う。ええっ!親切で車を回してくれたのではないのかと思いながら、どう見ても普通の乗用車だが、これがタクシーならあきらかな白タクで、違法行為だとおもったけれど、日本だって白タクがあるのだから、フィリピンのようないいかげんな国で白タクがないはずはないと思いつつ料金を尋ねると、運転していた若い男は申し訳なさそうな顔で500ペソだという。歩いてもいけるほどの距離を、実際この後歩いてみたのですが、たいした距離ではなかった。人相の良くない男と二人で、500ペソだといかにも強圧的な態度で迫ってくるのと、このホテルもこいつらの仲間であることは疑う余地すらないわけで、クルマに乗ってきた二人だけではなく、ドアボーイのようなのや得体の知れないのまでもが周りを取り囲むように集まってき始めたことから、早く金を払ってしまった方が良いという気持ちになり、日本円で1000円程だ、どうと言うことはないと思いながら500ペソを払ってホテルに入ると、クルマを運転していた若い男はここで消えたのですが、人相の良くない日本語が達者な方はホテルにチェックインをするのを確認して、後でバックリベートを請求すると言うことがあってのことなのでしょうが一緒にホテルに入ってきた。もちろん、ホテルからこの男にリベートが払われ、それが空港の警備担当の職員にも環流するのは間違いないことでしょう。彼らは皆グルで、最初からこの方法で旅行者から金をかすめ取っているのです。とにかく、警備のやつが電話をすると、10分程で2人がクルマに乗って現れたと言うことは、いつ警備のやつから電話がかかってきても良いように、空港の近くで待機していたと言うことなのでしょう。他に、仕事などをしていたら、急に電話をしてもすぐに対応などできるはずがないわけで、こいつらは、観光客がカモにかかるのをひたすら空港の近くで待っていて、それだからこそ、電話をするとすぐに来ることができたのでしょうが、全く呆れたものだとしか言い様がない。

     私がホテルのカウンターの向こうにいる女に向かって1泊だけだというと、すぐ隣でおもいっきりしかめっ面をして「どうして一泊なんだ?明日日本へ帰るのか?」と聞いてきたので、「今日はあんたにはめられたけれど、それは今日だけで、明日は最初に泊まる予定にしていたところに行くからだ」というと、苦り切った顔で舌打ちをした。そして「エルミタに行くというのか。あんなぼろホテルに行って、」とか、「あんなひどい町のホテルはみんなオンボロホテルばかりでどうしようもないのに!」などと言って盛んに怒っている。両替屋で1万円じゃだめだと言ったのは、両替商からのリベートだけではなく、何日もこれから行くホテルに泊まってもらいたい一心だったからなのだと言うことが、彼の言動であからさまになったのです。もう、ここまでくればわたしをだまして連れてきたことは明らかなので、腹の中で思ったことをはっきりいうことにしたと言うことらしい。

    • いいね! 0
    • コメント 1件

    体験記5

     ホテルのカウンターの中にいる女にホテルの金額を聞くと、2500ペソだという。ホテルの感じからして、1500ペソ以上だろうなとは思ってはいたけれど、2500とは予想外でした。1000ペソ前後の安ホテルに泊まるつもりにしていたのに、これでは予定が大幅に狂ってしまうことになってしまうと思い、もっと安い部屋はないのかというと、ないという。
     どこか他のホテルに移動できれば良いのだけれど、重い荷物を持ったまま逃げることなんてできるはずもないし、どうしたものかなと思っていると、こちらが予想外の料金に態度をはっきりとさせないでいることに業を煮やしたホテルの従業員と、ここに連れてきたごろつきはいらいらした様子で見ています。
     ホテル側としても、ここに私を強引に連れてきたごろつきにしても、せっかく捕まえたカモを逃がすわけにはいかないということなのでしょう。ここではらちがあかないと思ったらしく、腕をつかんで強引に脇にある小部屋に引きずるようにして連れて行き、そこに置いてあったこうした場合の備えなのでしょうが、ここよりも高いホテルのパンフレットをテーブルの上に並べて、同じようなホテルはみんなここよりも料金が高いと言うと同時に、ここの方が良いと言うことを執拗に言い、とにかく最低でも一泊させないことにはここから出さないという剣幕で、とにかく早いとこ金を払えの一点張りなのには閉口しました。
     私は、もっと安いホテルに泊まるつもりでいたのに、こいつが強引にここに連れてきたんだ、と言っても勿論聞く耳を持っていません。そんなことは言われるまでもなく知っていると言うことなのでしょう
     とにかく、ホテルの従業員とここへつれてきたごろつきが一緒になって、狭い小部屋の中でとり囲まれた状態になっているわけです。このまま拒否の態度を続けていると、危険なことになりそうな雰囲気が伝わってきたので、身ぐるみはがされたことを思えばたいしたことはないと思い、黙ってカウンターの所に戻ると、あとをホテルの従業員とごろつきが血相を変えてついてきて、どうするんだ!とわめいていたのを無視をして財布からお金を出してカウンターに2500ペソを放ると、みんなほっとしたようなうれしそうな顔になりました。もちろん、私の方はうれしくも何ともなかったけれど、カウンターの女が私を軽蔑したような顔で見ながら、紙になにやら書いている間、こんなことは普通の国ではあり得ない。白昼ホテルのロビーで恐喝を行うというのだから、まるで、カポネの時代のシカゴのようだ、と思いました。そしてカポネの時代のシカゴと同じで、このことを警察に言っても何の足しにもならないのだろう。だからこそ安心して、こんな時間に堂々と恐喝を行うのだろうが、全く、とんでもない国だ、と思いました。
     お金を払ったあと、クルマで誘拐されるように連れられてきたので、いったいここはどこかさっぱりわからない。いったいここはどのあたりなのかを地図で示してくれと言って地図を差し出したのですが、カウンターの女は地図全体を円で描くようにしてこのあたりだという。こいつは自分のいるホテルを地図で示すこともできないというのかと思ったけれど、たった一泊ばかりしか宿泊しない上に、すぐに料金を払わずにごねたやつなんかの面倒はみないと言うことらしい。このあとホテルの従業員の誰に聞いても同じような対応だったから。