体験記2

 結局為す術もなく、飲まず食わずでロビーの端に置いてある堅い椅子に9時間も座り続けたのですが、9時をすぎても両替所は開く気配すらない。全くなんて言う空港だ。腹が立って仕方がなかったけれど、いくら腹を立てていても仕方がないということで、ここのページで教えてもらった方法で両替所に行くことにしました。
 その方法というのはシャトルバスに乗ってドメスティックターミナルまで行くというものであったのですが、このことを教えてくれた人とは教えてくれた目的が違っていたとはいえ、非常事態です。現地通貨が何もないのでは、何もすることができない。バスにも乗れないし、タクシーにも乗れない。でも、シャトルバスならお金がなくても乗れると思った。それに地球の歩き方の地図でみると、ドメスティックとかかれたところから両替を行っている店が多いと書かれたところまで目と鼻の先の距離にあったからなのですが、シャトルバスに乗ろうとすると、警備の制服を着た空港の係員と思われる男が二人シャトルバスのすぐそばに立っていて、これがシャトルバスに乗るのなら航空券を見せろと言う。飛行機に乗るためにシャトルバスに乗るわけではないので、そのことを正直に話すとちょっと待てと言う。
 待てと言ったあと、警備の制服を着た男は携帯電話を盛んに操作をしているので、こちらのへたくそな英語に業を煮やして日本語の詳しいものにでも来てもらうように手配をしているのかと思っていたところ、すぐにクルマが来て、二人の男が乗ってきたのだけれど、年配の方の男が日本語で「両替所に行きたいんだな。連れて行ってやる」という。しかも、空港の職員は皆首から職員であることを証明するかのようにIDカードのようなものをぶら下げているのだが、この男も首から証明書のようなものをぶら下げていて、こういうものだから安心して任せてくれと言う。この証明書は本物か偽物かは今となっては知るよしもないのですが、どちらにしても大差はない。
 しかし、この時点では、空港の職員だと名乗るものが、両替をする店にクルマで連れて行ってくれるというのです。それもいきなり出てきたわけではなく、空港の警備の服装をして、シャトルバスに乗る者に不審な者がいないかをチェックしている正真正銘の空港の職員の男が手配をしてくれたものなのです。これを信用するのはおかしいというのは相当無理があると思う。
 思わず、まあ、なんて親切なと思って車に乗り込んだのだけれど、クルマが走り出してしばらくしたところで、「待てよ、これはあまりにも話がうますぎる。もしかして裏に何かあるのではないか」という不安が一瞬頭をよぎったのですが、今更どうすることもできなかった。

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  • 体験記3

     どうも、警官のような服装をした空港の係官が手配してくれたのだということになると、人間というのはどうしてもその制服の持つ魔力のようなものに、無意識に信頼をしてしまうということがあるようなのです。
     フィリピンでは、警官であっても信用できないと言うことは久しい以前から言われ、わかっているつもりだったのですが、いざ、そうした場面に直面すると、ついつい制服の持つ魔力にすべての疑念が押さえこまれてしまい、言うがままになってしまう。
     日本やアメリカのような国では、制服を着た時点で、その制服の持っている影響と言ったものを無意識に感じて、制服を利用して悪事をはたらこう等と考える者はまずいないし、いたとしてもすぐに捕まってしまうので、制服を着た人を信じてもそれでひどい目に遭うなどということはまずありえないのですが、フィリピンという国では遙かな前から、こうしたことが指摘されているにもかかわらず全く変わらないと言うことは、制服を着て不正をはたらいても捕まるということがないからなのでしょう。
     しかし、警官や警備の人間が一番危ないと言うことでは、その国のイメージをとんでもなく落とすことになるに決まっているわけで、まともな国であれば絶対に避けたいと思うはずだけれど、恐らく、わかっていてもどうすることもできないのかも知れません。だいたい、何であんなに他の国の空港と比べても異常なまでにたくさんの警備の服装をした者がいるのかと思うのだけれど、恐らく、様々な理由で雇わざるを得ない状況があるからなのでしょう。雇わざるを得ないから雇っていると言うことはとても強いわけで、多少の不正くらいで辞めさせること等できない、と言うことになってしまうわけです。まさしく、とんでもない仕組みとしかいいようがないのだけれど、これはフィリピンという国にとってもそこを訪れた者にとっても不幸としか言いようがない。

     クルマに乗り込んでから、大丈夫かな、という不安に駆られ始めたのですが、少なくともとんでもないところに連れて行かれるというようなことはなく、両替の店に連れて行ってくれた。ほっとして、近くの店に入ろうとすると、ここではなくこっちだという。どこの両替の店だってかまわないはずなのに、強引に入ろうとした隣の店に引っ張っていく。この時点で、この店と何らかの契約があるのだな。恐らくレートは悪いだろう、という悪い予感は的中して、レートはお世辞にもよくなかった。こんなはずではないと両替商に言うと、4800という数字を電卓に表示して、2万円だから9600だ。これはほかのどこよりもレートが良いと言い張った。日本へ来る直前にインターネットでみたものとはずいぶん違うと思い、それじゃ、他の店にと思ったけれど、実際翌日にエルミタで1万円を両替してみたところ5160でした。だいたい、こうした両替ではどこの国でも端数が出るのが普通なのに、4800などという馬鹿にきりの良い数字が出てきた時点でおかしいに決まっているのだけれど、隣の店に行こうとして隣に立っている男の顔を見ると、先ほどまで優しそうな顔をしていたのが、これ以上ないという威嚇の形相でにらみをきかせているのを見て、はめられたことをはっきりとさとったのでした。はめられたと言うことがわかったからと言って、下手に動いてクルマごとどこかに行かれたのでは大変なことになってしまう。荷物はクルマのトランクに入ったままなので、もちろん荷物を放って逃げるわけにも行かない。警察に言ったところで、警察なんて全く信用できないといわれている国です。荷物が行方不明になるくらいなら、1万円や2万円は安いものだと腹をくくるしかありませんでした。しかたがないので、とりあえず1万円を両替しようとしたのですが、隣でにらみをきかせているやつが、1万円では両替できない。2万円にしろとドスのきいた声で言う。
     この時点では先ほどまで首からぶらさげていた空港の職員であるらしいIDカードのようなものは消えていました。ここからは証明書などより、威圧の方が効果があるということを経験からわかっているものらしい。両替が終わると、男はクルマに乗れと言う。荷物はクルマのトランクに入ったままなので、イヤとはいえない。

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    体験記4

     もう、両替は終わったのだからこいつらには用はないと思ったのだけれど、荷物がトランクに入ったままでは逆らうわけにはいかなかった。つくづく、荷物をトランクに入れたのは失敗だったと思ったけれど、今更どうしようもない。仕方がないので渋々クルマに乗ると、とっても良いホテルを紹介するといって、両替商の集まっている商店街から反対の方向、空港の方に戻り始めた。
     私はエルミタに行くつもりできたのでエルミタに行って貰いたい。それがだめだというのなら、ここでおろしてくれと言ったが、勿論無視をされた。そしておせじにも魅力的とはいえないホテルの前に車を止めたのでした。
     クルマが走っている間は、ホテルを紹介すると言っているがほんとうにホテルに行くのかという不安があったのですが、とんでもない場所に建っているホテルだとはいえ、一応ホテルと思われるところの玄関前にクルマが止まったことから、とりあえず一安心と言ったところでした。
     ホテルは、玄関だけは綺麗だけれど、その周囲を見ると、まるでスラム街のような所で、とんでもないところにつれてこられたというのが第一印象でしたが、それでもこれで身ぐるみはがされて放り出されるという危険はなくなったわけで、安堵の胸をなで下ろしながらクルマを降りたのでした。
     クルマを降りると、日本語の達者な人相の良くない中年の男は、このクルマはタクシーだから料金を払えと言う。ええっ!親切で車を回してくれたのではないのかと思いながら、どう見ても普通の乗用車だが、これがタクシーならあきらかな白タクで、違法行為だとおもったけれど、日本だって白タクがあるのだから、フィリピンのようないいかげんな国で白タクがないはずはないと思いつつ料金を尋ねると、運転していた若い男は申し訳なさそうな顔で500ペソだという。歩いてもいけるほどの距離を、実際この後歩いてみたのですが、たいした距離ではなかった。人相の良くない男と二人で、500ペソだといかにも強圧的な態度で迫ってくるのと、このホテルもこいつらの仲間であることは疑う余地すらないわけで、クルマに乗ってきた二人だけではなく、ドアボーイのようなのや得体の知れないのまでもが周りを取り囲むように集まってき始めたことから、早く金を払ってしまった方が良いという気持ちになり、日本円で1000円程だ、どうと言うことはないと思いながら500ペソを払ってホテルに入ると、クルマを運転していた若い男はここで消えたのですが、人相の良くない日本語が達者な方はホテルにチェックインをするのを確認して、後でバックリベートを請求すると言うことがあってのことなのでしょうが一緒にホテルに入ってきた。もちろん、ホテルからこの男にリベートが払われ、それが空港の警備担当の職員にも環流するのは間違いないことでしょう。彼らは皆グルで、最初からこの方法で旅行者から金をかすめ取っているのです。とにかく、警備のやつが電話をすると、10分程で2人がクルマに乗って現れたと言うことは、いつ警備のやつから電話がかかってきても良いように、空港の近くで待機していたと言うことなのでしょう。他に、仕事などをしていたら、急に電話をしてもすぐに対応などできるはずがないわけで、こいつらは、観光客がカモにかかるのをひたすら空港の近くで待っていて、それだからこそ、電話をするとすぐに来ることができたのでしょうが、全く呆れたものだとしか言い様がない。

     私がホテルのカウンターの向こうにいる女に向かって1泊だけだというと、すぐ隣でおもいっきりしかめっ面をして「どうして一泊なんだ?明日日本へ帰るのか?」と聞いてきたので、「今日はあんたにはめられたけれど、それは今日だけで、明日は最初に泊まる予定にしていたところに行くからだ」というと、苦り切った顔で舌打ちをした。そして「エルミタに行くというのか。あんなぼろホテルに行って、」とか、「あんなひどい町のホテルはみんなオンボロホテルばかりでどうしようもないのに!」などと言って盛んに怒っている。両替屋で1万円じゃだめだと言ったのは、両替商からのリベートだけではなく、何日もこれから行くホテルに泊まってもらいたい一心だったからなのだと言うことが、彼の言動であからさまになったのです。もう、ここまでくればわたしをだまして連れてきたことは明らかなので、腹の中で思ったことをはっきりいうことにしたと言うことらしい。