2)フランスの警察犬 フランスとスイスの国境でジュネーブの東にフランス側の国境の町 Annemasse というところがある。 フランス内の移動で、いい連絡の列車がなくここの駅で2時間以上の待ち時間になった。 それで、駅の待合室で、ぼんやり、周りを見ていた。 ここは、スイスからの列車が着くと、警察と税関が、禁制品の密輸はないか、関税逃れはないか、総勢10名ほどで監視するようだ。(税関は仏語でdouaneといい、制服の背中にその文字が書いてある。) 警察は、列車到着の前に警察車両で駅に到着し、所定の場所に駐車して、警察犬2頭を降ろして、ホームの方へ行く。 駅の前にタクシー駐車場があって、助手席に犬を乗せて、窓を半分ほど開けているタクシーが客待ちをしていた。 その横を通りかかると、中から犬が顔を出し、警察犬を見ると、わんわんと軽く吠えた。 警察犬の1頭はそれを聞くと、タクシーの方へすり寄り、くんくんと鼻を鳴らして、タクシーに前足をかけたりして、仕事そっちのけでタクシーの犬の方に興味が行ってしまった。 この警察犬は雄犬で、どうも、タクシーの犬は雌犬のようだった。 ロミオとジュリエットよろしく、タクシーの犬は、窓から、「私を愛しているならここまで来て~」という感じで、くんくん鼻声を出しながら、フェロモンを振りまいている。 担当の警察官がひもを引っ張ってもこの警察犬はどうしても動こうとしない。 警察官は、しばらく犬を引っ張ったりしていたが、この犬をあきらめて、引き綱を手放して駅の方へ同僚とともに行ってしまった。 犬は、ひもを手放してもらったので、うれしそうに、ひもを引きずりながらタクシーの周りを回って、タクシーに入る入口を捜している。 しばらくすると、警察の仕事が終わり、警官の一団が戻ってきた。犬の担当の警察官は、タクシーの周りでうろうろしているこの犬の引き綱を拾い、力ずくで警察車両の方へ引きずっていった。 もう1頭は仕事大好き犬なのか、雌だったのか、タクシーの犬には見向きもしないで、警察官の先に立って、颯爽といつもの仕事に向かい、帰ってくるときも意気揚々という感じで引き上げてきた。 あの仕事嫌い雄犬は、署に戻ったら、しかられているよ。今日の午後は仕事にならなかったじゃないか、って。修養が足りないからしばらく再訓練で、外には出してもらえないかも。(修行僧みたいだね。) はかない恋は引き裂かれてしまったのだった。