イート イート マルカートの朝は築地に負けていない。 ましてや、6:30に一斉に出発してしまうバス乗り場はただごとではない。 爪楊枝をひっくりかえしたような喧騒の中、車掌の叫ぶ声だけをたよりに目的の探し出さなければならないのだ。 私は何の目的も持っていないながらも、アワサに向かうことにした。 何処へ移動するにもうってつけだろうと思ったし、農村を見ることも出来るだろうと思ったからだった。 バスは車掌が気を使って先頭の席を用意してくれたのだが、まるで現地の人から監視されているようだった。 2時間程走ると景色は徐々にこの国の素顔を見せ始める。 ロバを引く人、羊の群れ、牛の群れ、土塀の簡素な家。 ふと気がつくと私の後ろには少年が座っていた。 車掌がチケットを確認しながら何やら少年に文句を言っている。 彼は少しふて腐れた顔して、無言のまま正面を睨みつけていた。 バスはトイレ休憩1回、食事休憩1回をはさんで無事アワサへと到着した。 すると、その少年は私の2つあるバッグの一つをヒョイと持ち上げて降りた。 親切で荷物を降ろしてくれたのだ。 歳は17歳だと言った。 私は御礼を言って別れるつもりだったのだが、どうやら彼は荷物をホテルまで運ぶつもりらしい。 ホテルに着いて荷物を降ろすと、私は彼にチップを渡した。 ホッとしたら、なんだか急にお腹がすいてきたので、レストランで食事をすることにした。 その時、私はさっきの食事休憩で彼が何も食べていないのではないかと思った。 映像を巻き戻す私の記憶の視線の端々にただぼんやりと時間をやりすごしている彼の姿が映っているではないか! 私は慌てて彼を追いかけると食事に誘った。 料理が出来るまでの間、カタコトの英語で話をした。 兄弟は姉が1人、兄が1人、2人の弟、全部で7人家族だという。 まだこの時、私はてっきり7人で暮らしているものだと勘違いをしていた。 そうこうしているうちに注文したインジェラ2枚が運ばれてきた。 「イート イート」 17歳だと言い張る10歳位の少年が食事を私に勧める。 「イート イート」 本当は自分が一番お腹がすいているだろうに・・・ 「イート イート」 この子の親は一生懸命、そう育てたのだ。 「イート イート」