これは我家だけの旅の感動である。
私が46歳だった16年前(1992年)、ぼく等夫婦は初めてヨーロッパ旅行に出かけた。目的はオリエント急行にのるため。そのころ、一度廃止されたオリエント急行が再編成され、再び走り出していた。
豪華列車の感動もさることながら、ロンドン~ヴェニス間の車窓の中で、チロルの風景に見惚れた。 そして脇を走る道路を見ながら、こんな絵のような田舎を、車でゆっくり回ってみたいと思った。
それ以来、僕等は毎年のようにヨーロッパに出掛け、田舎巡りを重ねた。 そして今回の旅行のスケジュールに、久しぶりにチロルを組み込んでから、気が付いた。 あのオリエント急行はブレンナー峠を通るだろうか? 季節は奇しくもあの時と同じ5月下旬。 運航日程を調べて、5月26日の昼、僕等はブレンナー峠で待ち伏せた。
細かいタイムスケジュールは分からないが、オリエント急行が定刻通りインスブルック駅を出発すれば、12時45分から15分間のあいだに、きっとブレンナー峠を通る。 そう思って1時間以上前にレンタカーでブレンナーに到着し、待ち伏せポイントを探し、駅の手前の駐車場の2階で待った。 風が少し冷たかった。
12時47分、・・「来た!、白い屋根が見えた!」と、遠目のきくワイフが叫ぶと、少ししてオリエント急行の濃紺の車体が現れた。 私は写真を撮り、ワイフは乗客に手を振っていた。 ほどなく列車は通り過ぎ、僕等はぼんやりと余韻に浸っていたが、気が付いた。
峠まで牽引してきた起動車を、このブレンナー駅で外すに違いない。
駅まで300メートルを、ぼく等は走った。 駅にはオリエント急行の優雅な車体が有った。 駅のホームに行って近くで写真を撮った。 着飾った乗客達が社内で行き来しているのが窓越しに見える。 今日の乗客も、それぞれの夢を実現しているのだろう。
この16年間、旅への純粋な思いは変わらないけど、回数を重ねてきた僕等のヨーロッパ旅行の節目になった。
旅する者はみな、自分の旅行の感動を大切にしていますが、ぼく等夫婦も、その時その時の旅行を、楽しんでいます。