20/03/29 08:51

ファビピラビル(アビガン)が正式採用

T-705(開発コード)と言ったほうがなじみ深いのですが。

兎に角朗報です。もともとは、タミフルに替わる新しい抗インフルエンザの薬として、今は富士フィルムの子会社となった富山化学が開発したものです。通常(季節性または弱毒性)インフルエンザは一回(一個のウイルス粒子)の感染で10の6から8乗個まで増殖し、完成体となったウイルス粒子は宿主細胞から出撃して、新たな感染先を探します(こやつは生命体ではないので、細菌のように能動的に動くのではなく、液体または液体に包まれた状態でふらふらと移動するだけですが)。蛇足ですが、70%前後のエタノールがウイルスを無力化する効果というのは、インフルエンザの粒子がこのとき奪った宿主細胞のもので、それは少しの水分のあるアルコールに弱いのです。タミフル類は最終段階の宿主細胞からの脱出を止めるというまさに”水際”、首の皮一枚で止める方法で、実は今となっては効果も過大評価されていたようだし、ロッシュも問題(副作用)のあることを隠蔽していた疑惑も示されている薬。これに対し、北陸の弱小製薬会社が開発したT-705は、増殖自体を抑えるというもので、動物実験レベルではタミフルよりも効果が確認された当時としては画期的な薬。しかし、弱肉強食の薬業界、タミフルが売れるのに必要ないと誰も見向きもされず(大手が売ってくれないと日の目を見ない)にお蔵入りとなり、C型肝炎の治療剤として生かそうとかという時に強毒型トリインフルエンザが出現して復活、2009年時にはまだ臨床試験中で間に合わなかったものの、一時期かなり注目されたのですが、結局胎児に影響するということで、パンデミック時の使用に限るという条件付き承認。適応対象は「新型または再興型インフルエンザ感染症」で、「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る」となっています。これも特措法と同じで、なんでインフルエンザだけに封じ込めてしまったのか、今後の行政の課題でしょう。まあ、核酸類似体をウイルスRNAに導入するので、危険性はゼロではないのは間違いないことです。特にほ乳類は母体内で発生段階を経るので、催奇性がなくとも妊婦は危険だし、幼児もしかりでしょう。幸い、若年層は重症化しないのがCOVID-19なので、問題にはならないでしょう。投与も急性症なので短期だし。

インフルエンザはマイナス(-)RNAで、野戦病院(患者が死ぬか生きるかの瀬戸際)のようなところで使ったさいに効果があったエボラも同じマイナスRNA。一方、コロナはプラス型ですが、C型肝炎もプラスです。プラスとマイナスは初発段階が違うだけで、あとは共通なので、ファビピラビルが効いて当たり前。これを使えという声はかなりあったのですが、流石中国で、すでにジェネリックを自国企業に作らせて自由に使える状態。実際、深圳では軽症者に、武漢では重症者を含んだ患者に投与し、前者で9割強、後者で6割強に効果(改善)をみています。エボラのときも投与した本人が言うように、”統計を出すような悠長なことはできない”ため、論文にはできないものの、軽症(ウイルス価の低い)患者は改善しています。

開発者の一人である白木さんも指摘しているように、新型コロナ感染初期に投与すれば確実に重症化を阻止できると思われます。多くの人が、重篤な肺炎を恐れていて、これを治療することに着目しているのですが、発想の転換が必要で、軽症のうちに重症化を止める。要するに、
COVID-19感染→Aと誰もがなります。A→A'(無症状)またはB(軽症)で、B→Cが発症後6日程度で出ます。この割合が2割で、残りは快復します。C→Dで、Dは死亡。また、この過程を阻止できる有効な手段はありません。恐らく、有効ではあるもののファビピラビルでも止めることは難しでしょう。サイトカインストームが原因とする説が有力ですが、中国の詳細なデーターを解析すればわかる可能性はあるものの、これには時間と労力が必要。このあたりにも研究の力を投入すべきです。要するにファビピラビルでB→Cを阻止するのです。移行期間が2日程度あるので、発熱後4日以内に投与すれば効き、重症化をさせないことができるのです。

感染しても治療で直る少し重いカゼとしてみなせば、世界中がパニックにならなくて良いという理由が以上です。

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1件のコメント

  • 20/03/29 09:05

    売れる薬しか世に出ない

    2千字超えたので、先の続き。

    今回のことで感染症や薬に関する問題点が明らかになりました。エボラのときにも心ある研究者が言っていたのですが、金にならない病気には薬ができない現実をなんとかしたい。もし、ファビピラビルが救世主となれば、NHKあたりが新プロジェクトXあたりで取り上げるでしょう。大手が見向きもしなかった薬の開発を日本の北陸の弱小会社が続け、倒産の危機を写真用フィルムだけでは企業が成り立たないと確信した大手フィルム会社(富士フィルム)経営者が救い、予想外の催奇形性による条件付き承認(封印状態)に直面しても生産を続けた人達・・・。こうなって欲しいし、今はこれしか頼るものがないのも事実です。

    HIVもそうなのですが、ウイルス由来(宿主は持っていない)酵素を阻害します。ファビピラビルもそうです。一方でナファモスタットメシル酸は宿主側の酵素を阻害します。恐らく、季節性インフルエンザにもこの膵炎の薬は効く(あくまで極初期)でしょうが、これまでこの段階(細胞外活性化)で阻害を試みた薬品が出なかったのは、予防としてはあるが感染後には効果が薄く、しかも宿主側の酵素の阻害なので、副作用も観点かならなかったのだろうと思います。でも効くのなら併用すればより効果的でしょう。

    以前、快復した患者さんからの血清を使えば、重症肺炎は治る可能性を書きましたが、強毒型トリインフルエンザの例からも、この段階ではすでにウイルス自体から別の次元に発展している可能性のほうが高そうです。ならば血清は効かない。そもそもウイルス性肺炎自体が希で、SARSくらい。しかも、肺から血中にウイルスが出るので、ACE2のある心臓とかもやられるでしょう。強毒型トリインフルエンザも確かにその本質から全身性ではあるものの、死に至る直接の原因は感染細胞を自己免疫細胞が攻撃からなのかも知れません。このあたりは、実は中国の医者や研究者が相当にデータを持っているので、今後、国際連携で解明するべきでしょう。

    何度も書きますが、発想の転換が必要で、最早感染者を増やさないことに、莫大な金と資源投入、さらに国民の負担を強いるのではなく、重症化を阻止することに専念すれば、国境封鎖や都市機能の停止に奔走する必要はなくなります。市民の表情も明るくなるでしょう。その兆しが出てきたのは朗報であると信じたいのですが。

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