レポート

列車の中で(その2)

公開日 : 2008年08月04日
最終更新 :

「結婚したら、子供は何人欲しい?」
と聞くと、
「一人か、二人」
と答える。
「もし、二人とも女の子だったら?」
インドでは、ダウリー(持参金)がいるので、女の子は好まないはずだ。
「二人とも、女の子でも構わないよ。一人か二人で、十分だよ。インドの人口、増えすぎちゃうよ」
インドは、人口抑制策をとっている。
「ダウリーは?」
「ダウリーなんて………」
彼は、顔をしかめた。
「今、そんな時代じゃないよ」
私が、マハラジャの話をすると、
「カーストなんて、関係ないよ。僕、ラージプットだけど」
ラージプットは、戦士階級だ。
勇敢だとされている。
「貴方は、勇敢なのか?」
と聞くと、
「じゃあ、僕の姉さんは、武器を取って、敵と戦わないといけないわけ?僕、彼女に対してさえ、勇敢じゃないよ。”カースト”じゃなくて、今は、”教育”が大事なんだよ」
ずいぶん、進んだ考え方の持ち主のようだ。
お互いの家族の話をした。
彼には、姉がひとりいて、結婚しているが、バイオテクノロジーの研究者だそうだ。
新興のエリート家庭は、子供の教育に熱心で、大学教育では、手に職をつけさせたがることがわかる。

彼は、両親の住む町へ行く途中だった。
両親と離れて、ひとり暮らしていることを聞いて、
「じゃあ、料理とか、たいへんだね」
と言うと、
「全然。料理は、料理作る人が作るし」
「えっ?!本当?!」
「うん。掃除は、掃除の人がするし、洗濯は、洗濯の人に頼むし。僕、何もすることないよ」
「本当?!」
「うん。洗濯は、人に頼んでも、1ヶ月200ルピーだよ。労働力、安いもん」
ある意味、日本人より、恵まれている。
「うちの会社、日本にも、支店あるよ。日本では、自分で、全部、しないといけないんだってね」
そうなんだよ。
「じゃあ、貴方の彼女、貴方と結婚しても、料理も洗濯も掃除も、しなくていいの?」
「そうだよ」
「本当?!」
「本当」
「じゃあ、彼女、何をするの?」
「今の仕事を、続けるんじゃない」
彼女も高額所得者なんだろう。
そして、彼は、彼女が、仕事を続けることを望んでいる。
「じゃあ、金持ちの奥さん、仕事を持っていなければ、何をするの?」
「何もしないよ。リラックスしてるだけ。あと、お互いの家、訪問したり」
「本当?!」
「本当。料理は、料理する人がするし、洗濯は、洗濯の人に頼むし、掃除は、掃除の人がするし、子守は、子守の人がするし」
そんな世界があったなんて!
私は、思わず
「Will you marry me!」
と叫びそうになったが、一生インド料理を食べることを考えて、思いとどまった。

彼のような、まじめで純情な美青年は、日本では、絶滅した。
インド人男性と結婚する日本人女性は、少なくないが、こういう男性なら、結婚するのも悪くないと思う。

彼と話していて、思ったのは、「感覚、価値観が、日本人と似ている」ということだ。
似ているので、話が通じやすい。
ツーリストエリアにいる、頑迷で、わけのわからないインド人たちとは、「同じ国民だと思えない」を通り越して、「同じ人間だと思えない」。

私は、本当は、この「列車の中で」のレポートを書くつもりはなかった。
でも、「インド最後の夜」の衝撃が、強すぎたようなので、中和剤として書いた。
私が、この「列車の中で」を書くつもりがなかったのは、これを読んだ日本人女性が
「インドの男性って、みんな、そんなにステキなの?!」
と、誤解するといけないからだ。
私が会った、このインド人男性は、例外中の例外である。
こういう、インテリで高額所得者のインド人は、料金の安い列車車両に乗らない。
ツーリストエリアにもいない。
ツーリストエリアの安宿にも、泊まらない。
インドを旅行した場合、「インド最後の夜」のような出来事、さらにもっとひどい目に遭う確立は、高く、私が「列車の中で」で会ったようなインド人に出会う確立は、ゼロに近い。

「インド人なんて、最悪じゃ!インド人なんて、絶滅してしまえ!」
というのが、インドを旅行した普通の日本人の、一般的な感想である。





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2件のコメント

  • 08/08/05 02:19

    エリートたち

    インドのIIIT(バンガロールの大学院)の卒業生なんて、アメリカを始めとする世界中のIT企業の引っ張りダコです。初任給が数千万円なんて、ザラみたいですよ。まあ、そういう人たちは列車自体乗らないでしょうが。

    旅行者と接点があるインド人自体、インド人全体から見れば、ごくごく限られたインド人だけなんでしょうね。でも、旅行者と接点をもつようなインド人は騙す人が多いから、旅行者はそういうインド人とばかり触れているから、持ち帰るイメージとしては、「インド人は騙す」になってしまうんでしょうね。

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    08/08/05 13:22

    そうなんです。

    私は、インド人とのバトルばかりしていると思っている人が多いようですが、本当にひどい目に遭った人は、この掲示板に書きません。

    デリーの悪徳旅行会社に、数百ドル脅し取られたり、列車の中で、睡眠薬を盛られたり、アーグラーでレイプされたり、といった人は、レポートを書きません。

    誰かが、ムンバイでオートリキシャに、つり銭をだまされそうになった話を書いていましたが、インドでのトラブルとしては、小さいです。
    私が書くレポートも、トラブルとしては、小さいです。

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  • ラブトレイン

    確かにSL・3A・2Aで言葉、階層がはっきり違いますね。
    なんか月姫さん、段々と文体もみど先生のように・・
    コブラのような毒が・・(笑)

    >一生インド料理を食べることを考えて、思いとどまった。

    笑わせていただきました。

    インド人にも選ぶ権利はあると思いますが、もしアンカーウーマン
    (安藤優子さんみたいな仕事)を蹴落とせたらデリーで”月姫ハウス”
    を開いて柔な日本人バックパッカーの天敵になれたのに。某バラナシ
    の有名GHの大姉御みたいに・・

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    08/08/05 13:15

    お返事ありがとうございます。

    実は、大姉御が誰をさすのか、わかりません。
    ○ミコ、かな?

    やはり、男性は、内面からにじみでるモノが大切で、私も、彼を「いい」と思ったのは、表面に表れた内面なわけです。

    インド人男性と結婚する日本人女性は多いですが、貧乏なインド人と結婚して、共働きしている人がいます。
    それが、悪いとは言わないけれど、私なら、1日50ルピーや100ルピーの日当で働くのは、絶対イヤです。

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