まだ、MGロードにリクシャーのプリペイドカウンターがあることを知らなかったときのことだ。
バンガロールは6月に入ってもまだ暑かった。
私はくたびれて、MGロードでリクシャーを拾った。
メーターで行ってくれるというので、乗った。
しばらくしてメーターを見たが、動きが速い様子もない。
改造メーターではないようだ。
ほっとして、外をながめていたが、なにやら道が違う。
シティマーケットへ行くのに、こんな道通らないなずだ。
寂しい通りに入っていった。
行き先を間違えてるのかな。
リクシャードライバーが振り向いて言う。
「シティマーケットだな」
「そうだ。シティマーケットだ」
「70(ルピー)」
「メーターで行くって言ったじゃないか」
私は怒りのあまり英語がでてこなくなった。
「ちゃんとしゃべれよ」
ドライバーが笑う。
「OK。OK」
「ノー。ノー。メーターで行くって言ったから乗ったんだ。メーターで行け」
私は日本語で悪口雑言を浴びせた。
罵るのは日本語に限る。
リクシャーはちゃんと走り始めた。
見覚えのある通りに出た。やしの木がずらっと生えている。
ここまでくれば、シティマーケットは近い。
ドライバーが
「シティマーケットだな。60(ルピー)」
また言ってる。
「シティマーケットだ。まっすぐだ」
私は怒鳴った。
ドライバーは、私に土地勘があることに気づいて口をつぐんだ。
まもなくシティマーケットに着いた。
メーターは「43.5」
私は50ルピー札を出した。
ドライバーはニヤニヤ笑いながら
「ノーチェインジ(おつり、ないね)」
私はキレた。
気がつくと、手をドライバーの目の前へ伸ばして
「チェインジ(おつり)、チェインジ、チェインジ、チェインジ、...」
他のインド人が、何事かとのぞきこんでくる。が、おつりを要求している私には、なんの非もない。
ドライバーは胸ポケットから札束を取り出し、「小銭はないんだ」と見せる。
「10ルピーよこせ」
と私がそのお札に手を伸ばす。
ドライバーがお金をかばう。
とうとうドライバーが
「4ルピー出したら、10ルピーやる」
おつりは全額もぎとったが、遠回りをされたせいで10ルピー近く多く払った。
さすがの私も、インドのリクシャードライバーには、堪忍袋の緒が切れる。
インドを旅行する日本人で、リクシャードライバー相手にキレたことのない人なんて、いるんだろうか。
リクシャーなんて、大っキライだ。
リクシャードライバーとの闘いは続く...。