Q&A

地名の表記について

公開日 : 2016年04月19日
最終更新 :

現地地名をどのように表記するか、もともと日本語ではない言語ですからカタカナ地名に置き換えても、現地の呼び方とずれてしまうことはよくあることですが、ガイド本の表記と以前からの伝統的な呼び方のずれはちょっと考えてしまいます。

1.日本語の撥音「ん」は[n]に決まったものではなく前後の音韻の環境に合わせて[n][m][ng]などに変化します。表記記号としては[N]を利用したりします。
漢字音韻の場合は元来の音韻で末尾が[n][m][ng]のいずれをとるか決まるのが原則ですが、古代音が絶対的なものではなく、地域的時代的な相違があるように思います。
漢語でも日本語に入った段階で日本語の音韻体系に合わせて変化します。

2.タイ語やラオス語でも日本や朝鮮半島と同じく漢語出自の語彙が多くあるように感じます。日本語の場合と同じで、その国の言語体系に合わせて音韻や声調は変化していくようです。ここでは地名について考えてみます。
というのは、歩き方タイ編で「ランパーン」「ランブーン」などの地名が「ラムパーン」「ラムブーン」と表記されていて気になったからです。

3.手元の資料を調べてみると10年前の「歩き方\\\'05~\\\'06」までは「ランパーン」「ランブーン」という伝統的な表記でした。「歩き方\\\'09~\\\'10」では「ラムパーン」「ラムブーン」と変わっています。
タイ語の母音表記はどちらの地名も[- ำ][-am]ですから、原音忠実表記主義を採用したものと思われます。
しかし、日本語の撥音表記「ん」は後に唇音が続く場合は[m]と発音されるのが自然ですから、伝統的表記で間違いがあったわけではありません。日本語の音声に対する無理解が「ム」表記を発生させたと考えられます。

4.日本語の撥音に対する無理解はJR東日本にも見られ、「新-」という漢字音末のローマ字表記に通常は[n]を用いているのに、後続に[m],[b]のような唇音が続くと 「新橋」[shim-bashi]のように[m]音表記を用います。
これは伝統的な漢字音韻と日本語表記と異なり、わたしは[shin-bashi]のほうが美しく正しく感じます。

5.話がそれました。要するに原音忠実主義は誤りではないが、「ラムパーン「ラムプーン」のように伝統的な表記と異なるものは見た目に異様で「ム」[mu]の後の母音が有声化すればむしろ原音と離れてしまうわけです。
地名表記を変更した際に、編集会議で話題になったか知りませんが、従来の表記「ランパーン「ランブーン」を指示したいと思います。

6.タイ語の地名表記は、伝統的な表記を優先して現在の呼び方と異なるものがあります。「ペッチャブリ」と表記するけれど、皆さん「ペッブリ」と呼んでいるような例。こういうのは英文ガイド本でも英文地図でも古くからの表記に引きずられています。タイ語を耳で聞いていないで目で追うから。タイ人は自国語の音韻変化を解かっているので「ペッチャブリ」でも理解してくれますが、ガイド本は日常の呼び方に倣う方が良いと思います。

7.以前からこの掲示板で指摘していますが、北タイの「プレー」[แพร่]はカタカナで読んでも現地では全く通じません。
伝統的な表記は尊重するとして、ペエと呼ばないと通じないというような注記をガイド本に欲しいものです。

  • いいね! 0
  • コメント 5件

5件のコメント

  • 退会ユーザ @*******
    16/04/20 22:15

    大変勉強になりました。ありがとうございます。

    ろっきい様、初めまして。
    言語学や音声学・音韻論を全く勉強したことがない超ド素人の私には始めて知ることばかりで勉強になりました。
    (でもボンジョールノではなくて、ブォンジョールノなのです。日本人がつい粗略に扱いがちな二重母音です。)
    日本語のヘボン式ローマ字表記を常日頃から何か変だと感じておりましたが、これも音韻表記に関する無理解によるものなのでしょうか。漢語のピンインのようなきちんとした表記が欲しいものです。
    ご指摘になっている地域による音声の違いも私は耳は少し良い方なので、結構気になっております。我々関西人は鼻音を使わないので、恐らくngの音は余り無いと思います。
    上のレスのGIULIAさんはかなり欧米語のカタカナ表記に厳格な方だなと前から感じておりました。私は折衷的というか、もう定着しているものは仕方ないかと割り切って使っていますが、何とも気持ちの悪い感じはぬぐえません。しかし、微妙なものもあるので困ります。イタリア語の例を出します。
    例えばVeneziaをヴェネーツィア、とまで表記するかどうか。北伊人ならここを確かに長音で発音していますが、標準イタリア語発音とされている中部トスカーナ地方知識人の発音はそれほど長音にしていません。(私はこのあたりに住んでいたのでついこだわります。)
    またPisaは標準発音ならピーサとなります。これは念のためDizionario d\\\'ortografia e di pronunzia (イタリア語の正書法・発音辞典です、ド素人であるからこそ必要なのです)で確認しました。イタリア語のs の音を有声音で発音するか無声音で発音するかはそれこそ地方によって異なるので。(北は有声音が多いが南は無声音が多く、標準発音の中部は両方混じる。)
    更に(多分社会言語学の人たちが好きなテーマ?)階級差もヨーロッパ諸国では無視できないと思います。イギリスほど露骨ではないにせよ、イタリアでも見られる現象です。
    ・・とずぶの素人の単なる印象論を書き散らしてしまいました。しかし面白そうな分野ですね。ひょっとして(ひょっとしなくても)ご専門家でいらっしゃるのでしょうか。

    • いいね! 0
    • コメント 1件

    Sabinaさんへ

    コメントありがとうございました。音声のことなど考えが広がってまとまらず、お返事が遅れてしまいました。

    日本語は5つの母音ですから、外国語の音韻を示すには無理があり、そもそも日本人的な耳にはよく聞き取れない。
    文法は似たようなものですが、隣の半島の人たちのハングルのほうが有利ですね。

    日本語の撥音「ん」や促音「っ」はもともとは音節として意識されていたものでなく、漢字音を学習する中で発達してきたもののように思います。
    子音の[n][m]の相違は口蓋閉鎖音と両唇閉鎖音ですが、日本人はそれをあまり意識しない。日本語の音韻ではともに[N]だから。[ng]は鼻濁音と言いますが、撥音の問題では咽喉の閉鎖音ですね。
    わたしたちが香港[hong kong]などと発声するときは口蓋音でなく、やはり喉音になっていると思います。

    西洋言語は得意でなく、言語学の概論は西洋渡来の言語学であまり興味が持てず、わたしの知識は日本語音声学がもとになっています。当時金沢大学に転じられた上野善道先生が夏の集中講義にいらして、短期集中で勉強したものでした。もともと知識不足で、この板では学問的な話ではありません。

    このような話題に興味を持っていただいてお返事がいただきありがたいです。
    外国語の興味深い話、別な機会にまた楽しみたいものです。

    • いいね! 0
    • コメント 0件
  • カタカナ地名は現地泣かせ。

    メキシコでもカタカナ発音の地名には散々理解に苦しんでいます。こんな有名なところも知らんか、お前何年メキシコに住んでいるじゃい、なんかしょちゅう。歩き方の本を置いて言ってくれるので、日本語カタカナ地名を勉強中です。

    それから、空港の名前。街に一つしか空港がないのだから、誰も知らない空港愛称名で言われてもややこしくなるだけ。タクシーの運ちゃんに空港(アエロプエルト)と言えばいいだけのに、ベニート・フアレス空港など言うから600キロ離れたベニート・フアレス生誕で有名な都市のオハーカの空港まで連れて行かれそうになったという笑い話もあるくらいです。

    ここでも、質問される人、カタカナだけなくABC表示でもしてくれたら助かるんですが。それから、空港は、街の名前とヒコー機会社名、到着日と便名だけ知らせてくれればいいのに、愛称だけだと、どこの街かさっぱりわかりません。
    南米ペルーのリマに行くと言ったら、それじゃ同じ時期に南米行くので、チャベス空港へ迎えに来て欲しいと。チャベスと言えばあの亡くなった悪名高いベネズエラの大統領、アホか、俺がいるのはペルーのリマでベネズエラは遠すぎると答えてしまいました。

    お陰で中南米で50年も住んでいるのに、外国に住みたし、金もヒマもない大嘘つき爺なんて、ここで書かれてしまいました。

    • いいね! 0
    • コメント 1件

    空港のなまえ

    空港の名前は日本でも空港のある地域名を付けたもの。羽田空港とか成田空港とか。
    よくわからない愛称名を付けたものがありますね。高知龍馬空港とか、富士山静岡空港とか。
    海外空港でもそのような愛称名で知られた空港と、だれも愛称名を知らない空港があるのですね。

    日本人にはシャルルドゴール空港と言えば判るけれど、ロワシー空港と言うとどこじゃそれっとなる。

    東南アジアにも地域の地名を付けた空港とエライ人の名前を愛称にした空港がありますね。
    バンコク・ドンムアン空港とかビエンチャン・ワッタイ空港とかは地名。ジャカルタのスカルノ・ハッタ空港は人の名前。
    国際空港の愛称名が必ずしも一般的でないというのは知っておかなければだめですね。

    • いいね! 0
    • コメント 0件
  • 「ぎょえーて」とは俺の事かと「ゲーテ」言い

    さすけねえの隣の町内の旧街道の信号機には「MOTOMACHI」と英語表記されています。

    しかしあれは間違いで「MODOMAJI」が地元のほとんどの発音です。

    地名表記と発音の関係はそんなもの程度だと悩まない方が人生楽です。

    成功を祈る!

    • いいね! 0
    • コメント 1件

    音韻には標準語と地方方言の問題もありますね

    さすけねえさん、日本語には地域によって話し言葉の違いがありますね。
    さすけねえと表記しても、実際はサシケネエだったりして。

    タイ諸族にも標準タイ語と地域言語の問題があります。民族による違いもあるようです。タイ諸族の言語の差は小さいと感じます。

    わたしが体験している範囲ではタイ、ラーオの言語差は少なく、タイ諸族とシャム族との言語差が大きいです。
    タイ中部のチャオプラヤー川流域と海岸部のサイアム(シャム)の言語が標準語となり、ふだん自分たちの使っている言葉は悪い言葉だという意識があったりして、日本語の地域差に似た問題もありますね。

    日本のタイ語専攻の学生の社会言語学的な関心の対象になったりしています。

    わたしからみれば内陸部に住んでいたタイ族がシャム湾まで進出して海から渡来した外国語と交わってできたのがシャムの言葉で、内陸部に古くからあるプータイの方が土台なのですが。

    • いいね! 0
    • コメント 0件
  • 16/04/19 22:05

    ナンマイダブ スワンナプーム

    Suvarnabhumiはサンスクリット語の書き言葉に最も近いタイ語表記をし、
    更にそれを最も近い英語表記にした字ではないですか。

    南無阿弥陀仏と書いてナンマイダブーと読む宗派の葬式に先日行って来ましたが
    なんとなくそれに近いと説明してもいいのではと思っています。

    イタリア語ではそのままスヴァルナブーミと読むようです。
    そのままイタリアへ引っ張りますがSorrentoは、まんまローマ字でソッレントです。日本ではソレントが多数派。
    Pisaはピーザですがこれも日本ではピサが主流。私は度々原語に近い表記をしている。
    ミラーノ、イターリアなども日本語化するときに長音符を故意に捨て去られてきた。
    タイ語や韓国語中国語その他カタカナ表記が困難な言葉はあるが片仮名化しやすいイタリア語でさえ現地とは、ずれている有様。

    先日他で書きましたがグーグルマップで昔日本人がチャオプラヤー川を間違って呼んだメナム川表記が突然、冗談のように先祖返りしていました。グーグルへ連絡して数ヶ月たったけど直らないねという騒ぎも一部でありました。

    私もNihom-bashiなどという表記が嫌いです。


    • いいね! 0
    • コメント 1件

    ボンジョールノ、GIULIAさん

    イタリア語は西洋言語の中では音韻構造が日本語に近い。末尾に母音がつく開音節語ですね。
    日本語としてのイタリア地名がダメダメでも、それが伝統的表記だとなかなか変われないのでしょう。
    語のアクセントも母音の長短も大事な要素ですが、日本語表記にするのは難しい。

    長音符号はあるのだがむやみに付けると読みづらい。ラオス地名のパークセーはパクセと表記されることも多いですが、ヨーロッパの地名ほど伝統的表記が固定化されていないので好きなふうに表記できます。
    日本人は西洋を読みこなそうと努力を積み重ねたので、ヨーロッパの地名は伝統的な表記が固まっていますね。

    タイ語ラオス語ともに母音の長短のある言語ですが、実際長音が多いのです。
    わたしはすべて機械的に長音符号にするのではなく、短音で読むと違ってしまう場合に延ばしています。

    タイ語の語末子音は日本人には聞き取れないことが多く抜けて表記されることも多いです。
    言語自体が時代に合わせて変化していきますし・・・。

    グーグルが訂正に応じれば素晴らしい。
    トリップアドバイザーの場合は評価した宿の地図上の位置の訂正、宿はロッジではなくシティホテルですよと訂正要求してもなしのつぶて。なのにレビューをしてくれというメールだけは来る。今は信頼できないのでトリップアドバイザーにはわたしの情報は出しません。

    • いいね! 0
    • コメント 0件
  • スワンナプームも

    タイ語表記ではスワンナプーミですが(確かローマ字表記もそうだったような)みんなスワンナプームと呼びますよね。
    我々外国人には悩ましいところですが、「ま、そういうもんか」と思うようにしています。

    • いいね! 0
    • コメント 2件

    Re:スワンナプームも

    Willowyckさん、早速コメントありがとうございます。

    Q&Aが適切か疑問でしたが、レポートというわけでもなく、ガイド本に対する疑問のようなものです。
    投稿時点で、漢字の誤変換に気づかなかったところ(指示→支持とか)もありましたがご容赦ください。

    タイ語の英文表記の規則は、日本人からすると奇妙、というか難しくて、スワンナプーム空港が\\\'Suvarnaphumi Airport\\\'だったり。
    タイ人や英語圏の人にはこの表記で違和感はないのでしょうか。わかりません。

    タイ語では「สนามบินสุวรรณภูมิ」語の前半「สนามบิน(サナームビン)」が空港の意、「สุวรรณภูมิ(スワンナプーム)」が楽園の意味だったでしょうか。
    現代タイ語はシャム族の言葉が標準語となったもので、語末尾の「r」「l」表記は[n]音です。
    「สุวร(スオン)」は庭園、公園の意。

    外来語の語末の子音に[i]を付加するのは19世紀の日本語にあった現象で、当時は「ink」を「インキ」と表記していますね。タイ語の綴りと関係があるか知りませんが、似たような言語規則。

    タイの地名としてローイエット県の南部にスワンナプームという市があります。
    東北タイの地域交通の要衝でもあり、スワンナプーム空港は本当はサナームビンというのを前にくっつけてやるか、後にエアポートと付加するかしないといけないのです。
    外国人が話す場合は空港のことだろうと判断するでしょうが。