レポート

北京の中心で愛を叫ぶ

公開日 : 2012年02月12日
最終更新 :

誰かに聞いて欲しくて投稿します。実は別な公募に応募したものの見事ボツだったので、このままでは誰にも読まれず消えてしまう、と思い、短く書き直してみます。読んでくださるだけでうれしいです。実話をもとにしたお話、くらいに思ってください。
本文中の< >は英語です。私の英語力はこの程度。またタクロー、マリーは仮名です。

 天壇公園に行くのは3度目だった。ツアーと、ツアーの引率と。天壇行園には回音壁があるが、その1度目も2度目も、どうしたら反対側の声が聞こえるのかわからなかった。どんなに大声で叫んでも、背中でその声は聞こえはするが、音が回って来ているという感覚はなかった。
 しかし今回は、ある考えがあった。きっとそうに違いない。中国の歴史がつけた「回音壁」というネーミングに嘘はないはずだ。きっと声は壁を回る。
 そして私はゆるやかに円を描く壁の前に立った。あちこちで観光客が叫んでは、首をかしげている。ふっふっふ、昔の私と同じ失敗をしているようだ。
 ところが私はここで大失敗をしているのに気がついた。…誰に聞いてもらう?
 私は一人だったのだ。勢い込んで来てはみたが、一人で応答はできないし、音より速く走れない。私の声は、まさか壁を一周はしないだろう。

 ここはひとつ相手を探すしかない。一人旅の旅行者は見れば判る。おお、彼女はきっとそうだろう。
<すみません、お願いがあるのですが>彼女は、ああ、シャッターね、OKよ、というそぶり。
<いいえ、写真ではありません。あなたはこの建物の説明を読みましたか?>
<ええ。とても興味深い建物です>
<私は声の反響を試してみたい。しかし私は一人です。助けてくれませんか?>
<OK。どうすればいいの?> やった(^ ^)V
<彼らを見なさい>と、私はまわりにいる壁に向かって叫ぶ人々を指した。<彼らはみんな失敗しています>
<失敗?>彼女は興味深そうだった。
<はい、失敗です。彼らは壁に垂直に叫んでいる。反響は壁を回らない>我ながらよく「垂直」なんて単語を思い出したものだと思う。彼女はうなずいて聞いてくれている。
<だから、壁に向かってナナメに…>と言おうとして言葉に詰まった。ナナメなんて単語は知らない。私は中国旅行必携の筆談ノートを出して、図で説明した。ふわりと、のぞき込む彼女の金髪の香りがした。
<いい案ね。やってみましょう>彼女は賛成し、乗り気になってくれた。
<OK、私は向こうに行く。30秒後に叫ぶ。聞こえたら返事を>
 そう言って走り出した私を、彼女が呼び止めた。
<待って! あなたの名前!>
 そうだ、名前。美女と話をするなんてめったにないので、アガっていたのだろう。名前を知らなければ呼びようがない。私はまた彼女の前に引き返した。
<ははは、ごめん。私の名前はタクロー。日本人>
<マリーよ。アメリカから来た>そう言ってマリーは右手を出した。

 そして私は再び壁の反対側へ走った。間に建物があって、マリーの姿はもう見えない。
 30秒。私は壁に向かってナナメの方向に叫んだ。
<マリー、聞こえるかーい?>
ややあって、<タクロー、私はあなたの声が聞こえるー! 私の声は聞こえるー?>
<聞こえるー! マリー、私たちは成功したよ!>
<おめでとう、タクロー>
 えーっと、あとは何を言おうか。よし、このさいだ。
<マリー、愛してるよー!>
<タクロー、私も愛してるー!> アメリカ人って、ノリがいい。

 私たちのやり方を見ていた周りの失敗者たちは、次第にマネをし始めた。みんなナナメを向いて叫んでいる。中国語、英語、韓国語。そこはマネをしなくていいのに、みんな最後に愛を叫ぶのだ。アイラヴユー! ウォーアイニー! サランヘヨー!
 私とマリーはその声を聞きながら回音壁をあとにした。マリーは北の天壇の方へ。私は南出口へ。ここでお別れだ。
<ありがとう、マリー。気をつけて、そして北京の旅を楽しんで>
<ありがとう、タクロー。いい思い出ができた>
 かるくハグをして、彼女は去っていく。30秒後、私はマリーの後ろ姿に叫んだ。
<マリー、愛してるよー!>
 マリーはかろやかに手をふり、キスをひとつ投げてよこした。

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3件のコメント

  • 今度行ってたときに叫んでみます

    今度彼女と行ったときに叫んでみます。
    「オーイ お茶」
    何と返ってくるか?

    夢がないですね。

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    読んでくださってありがとうございます。

    「自分で入れろー」かな?
    そんなことを言い合える関係もまたいいですよね。
    くれぐれも、壁にはナナメに向かってください。
    いつか北京でお会いしましょう。ありがとうございました。

  • マリーとタクローの愛の話し♪こんど是非とも行ってみます。

    中国・北京…なんとなくロマンを感じられなかったのですが、少しイメージが変わりました。
    北京でも愛は芽生えますね。
    短い小説というかエッセイというか、はたまた詩というか…いずれにしてもステキな愛の物語です。
    こんちは様、荒野に咲いた一輪の花、ホッとしたひと時をありがとうございました。

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    ありがとうございます。

    ただ残念なことに、こちらはもう中年のおやじなので。マリーは私の娘くらいの年齢でした。
    でも、旅先でのこんな瞬間が私は大好きです。こんな出会いをするために旅に出るのだと思っています。
    またいつか、旅のレポート読んでください。ありがとうございました。

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  • 退会ユーザ @*******
    12/02/12 13:13

    目的が良く判りまへん。

    ・・・・・・・・・・・・・・・・
    臨場感が無い。情景が見えない。人が生きて見えない。
    文章も別に特別でも無い。
    これを英語で書いたら、もっとわけ判らん、と思うけど。

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    ご感想ありがとうございます。

     目的? 目的は…旅のレポートですから、こんなんだったよ、と伝えること、ですかね。この「旅のレポート」というカテゴリーにはそぐわない内容でしたか? だったとすれば、申し訳ないです。情報としては強いて言えば、回音壁にはナナメに向かえ、ということくらいで。
     1000文字以内でこの一連の様子を書いたら、細部にまで行き届きませんでした。まあ書いた本人の頭の中には情景がくっきり浮かんでいるけど、それを文章化するのは至難の業、ということですね。ご指摘ありがとうございました。今後いっそう精進いたします。